水曜日, 6月 09, 2010

たかがKPI、されどKPI ?!

「この企画で投資効果はあるんですか? 」 ― こうしたクライアントの問いかけに、「またか!」と頭を抱える広告人は多いはず。昨今の厳しい景況感の元、ムダな広告販促費を使いたくないというクライアントの意向はもっともな事ではあるが。

そこで登場するのが、ご存知のKPI(Key parformance indication:重要施策指標)。企画施策の効果を可視化するための指標である。本来、指標とは数値だけではないのだが、多くのクライアントは数値を拠り所とする。広告代理店のマーケタ―は、いかに、投資効果が良い企画であるかを客観的な数字を使って、説得に走らねばならない。
デジタル企画が増加するにつれて求められることの多くなったKPIだが、元々は、「モノを売るためにかかる投資コストの妥当性」を観測するための指標で、ダイレクトマーケティングからの発想。今では、「売り」に直結しない広告費は真っ先に削減されるので、何でもかんでも呪文のようにKPIと言われるのだ。
しかし、このKPIとは、事前予測値としては、どこまで信憑性を期待できるのであろうか。

広告施策がデジタルメデイアだけで完結する場合は、過去のベンチマークとなるログデータを参考に組み立てれば一応それらしい効果予測は出来上がる。問題は、リアルメディアとデジタルメディアを組み合わせたクロスメディア施策の指標化だ。

リアルの世界での数値とは、TVは世帯視聴率が殆どで、例え個人視聴率があったとしても視聴者数は推定数値にすぎない。新聞・雑誌等の発行部数は、広告主対策とも言える水増し気味の公称部数とABC協会が発表する発行部数では大幅な誤差が出る。実売数に至っては、公称部数の半分以下ということもある。
かつて、「実売数が低いと編集部の士気が下がるから、出版社内部でも機密事項なんです」と聞いて、ニヤリとしたことがある。
交通広告では乗車客数や通行者数の概数しか出てこない。車内吊や大きな駅貼りポスターだって、公表相当数の乗客や通行者に本当に見られているとは限らない。
例え調査結果として数値が発表されても、インタビューやアンケート調査であればデジタルログのような証拠に裏打ちされていないのだから、やはり推定数値としか言いようがないのだ。



そもそもリアルメディアでの広告とは、直接、販売効果を狙うというより、ブランディング効果や製品認知を上げるなどの目的で使用される事が多く、リアルメディア広告単体で直接的な販売効果を予測すること自体が不可能であり、不毛でもある。

しかし、クロスメディア施策の場合、殆ど販売が最終目的になり、リアルメディアの広告からいかに多くの人々を企業のWEBページやECサイトにドライブさせられるかという予測を立てなければならない。しかもCPA(製品を1個売るのに掛かる広告費単価)が2000円のように条件設定されていたりする。
効果予測する時に重要なことは、クライアントの過去の実績データを可能な限りの開示していただくことと、数値化しやすいデジタルメディアの指標にリアルの指標をいかにすり合わせるかを考えること。つまり、リアルメディアのImpressionや、Search、CTR(Click Through Rate)が、どの段階のどの数値を指すのかという明確な尺度設定が重要になってくる。

そして、最終的には、ブランドや製品カテゴリーの動向や時代のインサイトなどに照らしながら、リアルメディアから提供される数値を増減して全体像に組み込んでいける個人の「経験」と「読みの判断」が決め手になると思うのである。
膨大なデータを抽出するシステムやアプリをつくれば自動的にはじき出せるような錯覚に陥るが、私は決してそうは簡単にはいかないだろうと思っている。
「なんだ、感ピュータか!」と笑われそうだが、実はそこがマーケティング・コミュニケーション・プランナーの実力なのだ。

KPIとは広告活動のバイブルでもない。クライアントとの信頼関係の中で、あらゆる施策を共に軌道修正するために使われるべき指標だと思っている。

そう言いながら、マーケティング・コミュニケーションプランを考える時、KPIが絶対値ではないと知りつつ、必死で数値の条件を洗い出し、その数値に捕り付かれそうになる自分がいることも確かなのだけれど。





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