月曜日, 9月 27, 2010

デジ・キャンの舞台裏から。

デジタル技術の開発競争が激化し、毎日のように進化したテクニックがリリースされるようになった。このような革新的技術は広告・販促キャンペーンにも、いち早く取り入れられるのだが、果たして、これが消費者に「買いたくなる」動機づけとなるのだろうか。
問題は、そのような技術を駆使して得られる結果である。販促企画は、ブランドの認知を上げたり、話題作りのPRとは目的が異なり、どんなに話題になろうと製品が売れない限りクライアントに胸を張って請求書を出せないのだ。

今日は販促企画で展開されているデジタルキャンペーン(通称:デジ・キャン)について、その制作側の視点で書いてみたいと思う。

販促キャンペーンを考案する時、大抵は真っ先に何を景品にすれば受けるかを考え始める。ブランドや製品と関連付けながら。確かに欲しい景品が当たるキャンペーンは購買の動機づけにはなるのだが、私は人の購買行動の背中を押すのは本能や習慣性を刺激することではないかと思っている。

例えば、普通の男性諸氏なら美しい女性を見れば振り返りたくなるし、空腹の時に美味しそうなモノを見れば口の中も湿って来る。また、食事の後に歯を磨くことはあっても、食事の前に歯を磨く人はほとんどいない。つまり、人間の深層心理や習慣的な行動パターンに同調できる仕組みというものは、思わず「買いたくなる」気持ちにさせやすい最も有効な方法だと思うのだ。これはアナログであれ、デジタルであれ、手法や演出が違っても永遠に変わらない法則に違いない。

そんな法則を実感したのが、2007年に実施した“PEPSI NEXバザール"キャンペーンである。
前年同時期の売り上げを50%も伸ばす結果となったこのデジ・キャンは、目を見張るような景品を揃えたわけでも、革新的なデジタル技術を駆使したわけでもなかった。
簡単に概要をまとめると、PEPSI NEX(製品名)を購入して獲得したポイントを通貨に見立て、仮想デパートで好きなモノを選んで購入できる(実際には抽選権利の獲得)というアイデア。コアターゲットはファッションや新しい雑貨の好きな若い人々だが、もう少し広い層までにアピールする使命を受けていた。

"PEPSI NEX バザール"と名付けた仮想デパートは1Fが生活雑貨、2Fがレディスファッション、3Fがメンズファッション、4Fは製品を買わなくてもチャレンジできる有名ブランドの福袋応募フロア、そして、別館は人気ファッション情報のコーナーとなっていた。





このキャンペーンではサンプリングやその他のプログラムも展開しているが、デジ・キャンの大まかな流れは下記の動画(約2分)でご理解頂けると思う。
(海外向け資料なので英語版日本語字幕)





◆人は「ついつい」や「ついでに」を繰り返す。
このキャンペーンは毎週、陳列商品が変わり、毎週末の抽選結果が翌月曜日に発表された。自分の応募したものが当たったかどうかはWEBサイトのマイページ(自分のポイントや応募履歴が掲載)に行かないと判らない。月曜日に当落を確認しにWEBサイトに来た人は、ついでに、翌週の陳列商品を確かめてみる。ついでに、購買を伴わなくても応募できる福袋の中身もチェックして、応募してからWEBサイトを出る流れだ。今週、気に入った陳列商品がなければ、翌週まで新しい商品を待つ人もいる。こうして、1度参加すると、次の週もその次の週もこの仮想デパートに足を運んでくれることになった。最高では9週間で2000本以上製品を購入して参加して下さった方もいた。
この導線のカギは、人間の「ついつい」と「ついでに」というインサイトにある。


◆目の前に多くのモノが並んでいれば、選びたくなる心理。
ECショップのような機能を持たせた仮想デパートに陳列した商品は9週間で、55の人気ブランドから162種類。ポイント数に合わせて選べる景品は色違い、サイズ違いを合わせれば、500アイテムに近い数を収集した。勿論、制作側としては全て人気商品で揃えたいとは思うのだが、ブランドから提案される商品の中には「?」と思う場合だってあるのだ。
しかし、陳列した商品が売れ残る(応募対象にされない)ことは全くなかった。世の中には様々な嗜好の人々がいる。モノが欲しいというより、選ぶ行為が楽しいのだということを教えられた。



◆もはや、人はリアルとヴァーチャルの境界線を意識しないで生活している。
このように大量の景品を揃えたのだが、PEPSIロゴのついたオリジナルのアイテムはひとつもない。
なぜなら、PEPSIブランドは露出などしなくても既にBigブランドであり、私たちはその「楽しい世界感」を伝えたかったから。あえて、リアルとヴァーチャルをクロスさせて記憶の相乗効果を上げるために、キャンペーンと同じタイミングで街のブランドショップの店頭でも購入できる最新の商品に限った。仮想デパートで見た商品をリアルで確かめる人もいれば、リアルのショップで見た商品を仮想デパートで見つけて入店してくれる人もいる。
配布したブログパーツの中の毎週更新される陳列商品を見て、仮想デパートに来店してくれる人もいた。
「気になる商品はなくなる前に手に入れよう」という気持ちは、ショッピングをする時には当たり前に起こるものだと思う。リアルだろうとヴァーチャルだろうと。


◆デジタルでも井戸端会議は楽しい。
そして、期せずして、獲得した商品をブログにアップして、多くの人が「今週当たったモノ」を見せ合っていた。「子供のためにおもちゃのドラムにした」「奥さんのためにレディースに応募した」など、自分自身の好む商品がない場合でも誰かのためにと応募する人が沢山いた。そして、多くのブログで立ち話をするようにキャンペーンを中心にした会話が成り立って行った。
3年も前の事なので、TwitterやFacebook等のオープンなソーシャルコミュニケーションも一般には認知されていなかった時ではあったが。

このキャンペーンは、私にとっては実験でもあった。こんなことを言ったら怒られそうだが、今ならクライアントも許してくれるだろう。多分、製品を購入してくださった方々にも楽しんでいただけたのではないだろうか。

どんどんデジタルディバイスやソーシャルメディアが広がり、デジタル技術が進化する時代だからこそ、今もう一度、人の心や習慣をつかむということについて、じっくり考えてみたいと思っている。

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

非常に参考になりました。小手先のテクニックだけに依存しない、まさに、私が目指すマーケティングです。

lucygoo さんのコメント...

ご拝読ありがとうございました。
大変励みになります。
新しい時代の勢いだけに巻き込まれてしまわないようにやっていければと思います。